ももえ
三線をいじるようになってから、沖縄民謡も聴くようになった。
歌詞はさっぱり判らない。
生まれも育ちも沖縄の私だが、本式の沖縄方言はもう外国語みたいなものだ。
だからネットで訳を調べたりする。
わらべ歌には奇妙な味わいがある。
背景の説明もオチもない、シュールな詞世界だからだろう。
マザーグースにも通じるものがあると思う。
例えば『かまどぅーぐゎーが ちよーせー』という曲がある。
タイトルの意味は『カマドゥーちゃんが来ているよ』
<原詩>
かまどうぐゎーが ちよーせー
むぬいってぃ くぃーれー
まかいやねーらん
とぃないんじ かてぃくば
あみふってぃ いからん
かさかんてぃ いけ
まじむんぬ立ちょん
ぼうむってぃ うーれー
うじてぇ ならんさ
<対訳>
カマドゥーちゃんが 来ているよ
御飯を あげなさい
御碗がないよ
お隣で 借りていらっしゃい
雨が降って いけないよ
傘をさして 行ってらっしゃい
何かこわいものが立っているよ
棒を持って 追い払いなさい
恐れては いけないよ
何か不思議な感じがしませんか?
カマドゥーとは「かまど」の沖縄弁。
そしてここで歌われるカマドゥーとは女の子の名前である。
かつての沖縄では女性に「かまど(カマドゥー)」とか「なべ(ナビィ)」と名づけていたのだ。
私が小学生の頃に、祖母に名前を聞いたことがある。
普段はオバアとしか呼ばないから、祖母の名前を知らなかった。
そして、その時の祖母の答えは「ももえ」であった。
当時、山口百恵が国民的アイドルだった頃の話である。
百恵ちゃんと同じ名前だなんて、かっこいい!
と思った。
それから数年後に背が伸びて祖母の家の表札が読めるようになって、そこに「カマド」と書いてあるのを見つけるまで信じていたのものだ。
あれは祖母のギャグだった。
当時でも60歳くらいにはなっていたはずで、それで「ももえ」もないだろうと思うが、それだけになんだか可笑しい。
その祖母がこの世を去って数年経つが、この「カマドゥーちゃん」の歌を聴くと、祖母と、そのギャグを懐かしく思い出す。
いつか自分にも孫ができたら、こんな耐用年数の長いギャグを一つくらいはかましたいな、と思う。
*旧ブログからの再投稿です。